藤よし代表取締役会長、早川鴻之輔(はやかわ・こうのすけ)さん談
Q 焼きとり屋なのに、なぜ牛肉や豚肉があるの?
焼きとりは、スズメから始まりました。最初がスズメだったから焼きとりと言ったわけですが、それからニワトリに変わっていった。さらに、モツ串、豚や牛の串と素材のすそ野が広がりました。焼きとり屋で、これだけ多くの種類の肉を使った串を出し始めたのは、うちが先駆けじゃないかと思っています。藤よしが動物の肉や内臓を使ってきたのは、兄、早川清一の発想によるものです。彼は戦前、満州(現在の中国東北部)で生活していました。満州の人々は、動物の肉はもちろん、内臓、たとえば弁天とかハツと呼ばれる部位や軟骨も当たり前のように食材として使っていました。終戦で満州から博多港に引き揚げて来た兄は、焼きとりで生計を立てると決めました。やがて、スズメだけでなく、内臓とともに牛肉や豚肉も使うようになったのです。自由な発想で食材のレパートリーを広げたおかげで、今の藤よしがあるのです。
Q やっぱり、焼きとりは塩でしょう
「焼きとりは塩だ」という方は確かにいます。私もそれは否定しません。ただ、なんでもかんでも、塩をかければよいというものではない。食材の持ち味を生かすには、それにマッチするのは塩なのか、特製のタレなのか、ニンニク醤油なのか。その判断です。それぞれ相性というか、適性があるわけです。何が何でも塩というのも違うし、ニンニク醤油をかければ何でも美味いというわけもないのです。私がこだわってきたのは、藤よし特製のタレです。常連さんが「藤よしの焼きとりは、一本一本が、それぞれちゃんとした料理だ」と言ってくださったことがあります。しかしこの常連さんは厳しかった。店に来るたびに「今日のタレは、ここがだめ」「こういうタレなら合格」と、来るたびに厳しい評価を下すのです。だからこっちも「絶対、美味いと言わせて見せる」と頑張った。そうやってタレにこだわって来たし、そのおかげで藤よしのタレは進化したと思っています。え、レシピですか。そりゃ、秘密ですよ。
Q 焼きとりは「串打ち三年、焼き一生」と言いますが、なぜ串に刺すだけの作業を習得するのに三年もかかるんですか?
串に肉を刺す作業。単純に見えるかもしれませんが、実は奥が深いのです。「串打ち」というこの作業が完璧でないと、いくら熟練の職人が焼いても、美しい焼きとりには仕上がらないのです。美しい焼きとりとは何か。それは、串の型が美しいということです。「なんだ、見た目なのか?」と思うでしょう。しかし、見た目が悪い焼きとりが、美味しいわけがないのです。たとえば、串に刺す肉の切り方というものがあります。適当にぶつ切りしているわけじゃないのです。どのようにカットし、どういう角度で串に刺せば、不格好に変形したりせずに焼き上げられるか。そこまで考えないと、見た目も美しく、食べたら絶品という焼きとりはできません。理屈に合った切り方をして、しかも正しい刺し方をする。そうすることで、焼き上げた時に「美しいひと串」ができるのです。
Q 焼きとりの奥義って、何ですか?
それを簡単に説明することなんて、できませんよ。肉をさばく工程。野菜を切る角度。串打ち、焼き、焦がし、どの工程をとっても、説明のしようがない。そういう世界なのです。串の刺し方ひとつで、焼きが悪くなる。串の刺し方には人間性が出ます。そして、その結果は正直です。焼きとりの姿が美しいか、そうでないか。職人の心がけがはっきり出る。それが焼きとりです。ひとつ、分かりやすい例を挙げるとすれば、食材を串に刺す順番というのは、藤よしならではのものがあります。それは末広がりに刺す、ということです。手元は小さな食材、先は大きく。一口目に、大ぶりなネタを味わっていただく。掛け値なしの勝負です。一口目が一番大事。それは昔から変わらないですね。
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